うちにはジュール・ベルヌ全集・本邦初訳の初版本24巻が揃っている。小学校高学年か、中学生の頃の愛読書だった。その時に初めて「十五少年漂流記」が実は「2年間のバカンス」という原題だったことを知った。
 「海底2万マイル」や「80日間世界一周」の世界には胸を踊らせた記憶がある。「征服者ロビュール」を読んで中学校の読書感想文というのか、評論みたいなのを書いていい点を取ったこともある。とにかくベルヌは愛読書だった。
 変な話だが、いつからあるのかこの「積ん読本」が目に入った。こんな本を買ったことさえ忘れていたのだが、みると1991年になって発見されたベルヌの新手稿の翻訳である。そんな本がうちにあるなんて知らなかった!! 早速読んでみることにした。^^;

 研究によれば、この原稿の書かれたのは1863年頃と考えられる。だとすればそれは彼が一連の「空想科学小説」をものにする以前に書かれたことになるらしい。
 内容は、彼が小説を書いた100年後、1963年のパリを題材にし、一人の詩人がパリを時間的・空間的にさまよう物語である。

 1863年とは文久3年。日本ではまだ明治維新前。1866年にニューヨークで高架鉄道が建設され、1878年にエジソンらが白熱電球を発明している。
 それに先立つこの時期に100年後のパリを、まさしく現代の都市の姿として描いているのに驚く。

 さらに驚くのは、科学の進歩が人間社会に及ぼす影響である。科学・工業・金融のもたらす進歩が、人間性に与える変容をカリカチュアライズして描いてあるが、その本質はそのまま現代社会の問題をえぐっているように見える。
 「書き手の数が読み手を上回る新聞」というくだりがあり、興味を引かれる。まるでこれは林立するweb pageのようにも読める。

 作品は非常にペシミスティックな終わり方をしており、彼は現代(彼の未来?!)社会の問題の解決法をなんら提示していないが、原因を書いているのだから、解答は読者なりに見いだせるものと思う。少なくとも「態度」として。


(c)久島昌弘
sheemer@ryukyu.ne.jp
無断転載禁止
All Rights Reserved. 1997.07.01